藤沢宿には中世以前の自然や地形、江戸時代の東海道を中心とした宿場の町割りや近代以降の問屋街の街並みといったような多くの時代の歴史が積層された資源が今もさまざまな形で分散し、残されています。重要なことは、これら多様な時代の資源が互いに断絶することなく、ひとつのまちの歴史の連なりの中で藤沢宿らしさをつくりあげてきたことにあります。しかし今日、それらの資源はマンション開発や自動車交通の普及といった現代的な要素によって断絶されてしまったり、埋没してしまっている現状にあります。こうした状況において、将来もまちがそのまちらしさを残していくためには、まちが地域の中心として発展した歴史的契機、ここで言えば藤沢宿が各時代に発展した歴史的経緯を広く発信し、継承していく必要があります。実際、近年こうした問題意識をもとに、地域が培ってきた歴史や文化を今後のまちづくりの資源として継承していくことを目的として、地域学習や保存運動、まちづくり活動などの市民主導の取り組みが積極的に行われつつあります。
私達が提案する歴史まちづくりとは、地域の歴史を大過去から今に至るまで連続的に紡いでいく「地域文脈デザイン」です。藤沢宿では「中世の宿場町」としてのイメージが強い一方で、前述の通り、藤沢宿は近世以前の自然や地形、近代以降作られた蔵など様々な時代の歴史資源が蓄積されて形成された都市でもあります。つまり、これらの歴史的要素がそれぞれ絡み合い、連続性を持って現在の藤沢宿を形成していることからも、特定の時代を切り取るのだけでなく積層された歴史を連続的な文脈として掘り下げ価値を見出す視点が重要であると考えられます。そこで、私達は資源を時代毎に個別に捉え保全・復元していくまちづくりではなく、現代の生活スタイル、地域文化に適した形で人々にとって親しみやすく歴史や文化が生活に溶け込んだまちづくりの手法、資源の再生・活用モデルを提案します。
私達が今回企画したちょいぶらは、よく知られた観光スポットをめぐり歩くというのではなく、一見何気ない場所を歩きながら、そこにある意味性を発信していくことを趣旨としています。つまり、見え隠れする藤沢宿の歴史が紡いできた物語を実感してもらいたい、そんな地域文脈デザインの実証実験として本企画を考案しました。